2015年3月9日月曜日

書評『ソーシャルシフト 新しい顧客戦略の教科書』と活動報告

皆さん、こんにちは。

3月になりました。あとひと月で新年度です。この時期は、卒論も一段落し、新年度に向けた準備と自身の研究を進める時間でもあります。

普段の授業期間中は、日々の授業や学生対応、事務処理などに追われていますが、夏休みや年末年始、春休みの時期は、大学教員にとっては貴重な研究時間といえます。よく「春休みでも仕事しているのですか?」と聞かれますが、仕事(=研究)はしています。もちろん、給料も出ます。ただ、普段とはやることや仕事のスタイルが違うので、一般の方には知られていない部分がありますね。

さて今回は、最近の活動と合わせて、その際に読んだ書籍の書評を書いてみます。

ソーシャルシフトの会での活動

皆さんは「ソーシャルシフト」という言葉をご存知でしょうか?ソーシャルシフトとは、ソーシャルメディアを使った社内改革や経営革新のことと言われています(参考:日本経済新聞記事 2012/2/22)。

しかし、これは企業の情報発信にソーシャルメディアを活用することが本質ではありません。ソーシャルメディアによって情報が透明化され、それによって生活者の声に耳を傾けることができ、価値観(=企業理念)が徐々に従業員に浸透していくことで、最終的に組織が内部から「ソーシャル」に変わることです。この変革には、価値観の共有とオープンリーダーシップ(徹底したオープンな情報共有と権限移譲により自律的なリーダーシップを発揮すること)が重要とされています(斉藤徹著『ソーシャルシフト』より)。これを続けることで、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」が実現できるという考え方です。

このような変化を起こすことがソーシャルシフトの本質であると、私は理解しています。





私自身は、ソーシャルメディアを研究テーマに取り入れていることもあり、興味があってソーシャルシフトの会のイベントに度々参加しています。2014年11月のソーシャルシフトの会2周年記念イベントの際は、ゼミの学生2名が「ソーシャルシフトの普及」を研究テーマとして取り組みたいということで、彼らとともにイベントに参加しました。

その会場で、大手食品スーパーのカスミにてソーシャルシフトを実践する高橋 徹さんに出会い、後日カスミ本社に伺うことになりました。


ソーシャルシフト実践に取り組むカスミ本社への訪問
カスミの高橋さんを訪ねて、2月20日(金)に茨城県つくば市にあるカスミつくばセンターに行って来ました。カスミのソーシャルシフトに取り組む高橋 徹さん、大里光廣さんから、ソーシャルシフトに取り組む経緯や現場で苦労された話、各店舗でソーシャルシフトを推進するためのフレームワークなど、様々なお話を伺いました。

カスミ内でのソーシャルシフトを推進する専属組織「ソーシャルメディア・コミュニケーション研究会(通称ソーコミ)」では、こういった課題に積極的に取り組まれてきたそうです(参考:ソーシャルシフト事例|in the looop)。

最初は10店舗から始まったカスミのソーシャルシフト・モデル店舗は、現在58店舗まで拡大され、近くさらに倍増されるとのことです。

今回の訪問では、今後の研究方針に関する相談が主な目的だったのですが、学生達が考えてきたインタビュー内容よりも、もっと深く多くのことをお話し頂きました。ありがとうございました!

学生にとっても、私にとっても、ソーシャルシフト関連の書籍で勉強するよりも何倍も大きな価値があったと思います。是非、今後の研究に活かしたいと考えています。

訪問の際に、高橋さんから「ソーシャルシフト 新しい顧客戦略の教科書」を紹介して頂きました。カスミでのソーシャルシフトの取り組みを参考に、ループス・コミュニケーションズの斉藤徹さん、伊藤友里さんが物語として書かれた本です。



書評『ソーシャルシフト 新しい顧客戦略の教科書』

その後すぐに「ソーシャルシフト 新しい顧客戦略の教科書」を読みました。これまでソーシャルメディアを導入していなかった食品スーパーが炎上事件をきっかけに、ソーシャルメディア活用や自律的な店舗改革に取り組む様子が描かれています。

ソーシャルシフト関連の書籍で理論や考え方自体は分かっていましたが、物語として追体験できることでより理解が深まりました。読みやすく書かれているので、これから勉強しようとする学生や、企業でのソーシャルメディア活用に取り組もうとされる方にもオススメです。

「真実の瞬間」という言葉があるように、食品スーパーにとって一番大切な顧客接点は売り場です。本部がすべてをコントロールするのではなく、現場に権限を委譲することで、一人ひとりの従業員がどうしたらお客様の笑顔につながるかを考え、そのために自律的に動くことができるようになります。

しかしながら、本部自体が旧態依然のままの組織では、現場の声を即座に反映することができず、結果としてそれが足枷となってしまうことがあるようです。実際にカスミさんのソーシャルシフトでもそういった事態はあったようですが、この辺りの本丸をどうやって攻略していくかは、どの組織でも一筋縄ではいかないだろうなと感じました。

是非、この書籍を読まれる際は、ご自身が所属する組織ではどうすればソーシャルシフトを推進できるかを考えながら読んでみるとよいように思います。

『7つの習慣』『オープンリーダーシップ』とソーシャルシフト

ソーシャルシフトを実践するためには、全社員が経営哲学を共有し、自律的に行動し、最高の顧客経験価値を提供することで、結果として事業成果につながるという流れが必要不可欠です。この根幹を成す考え方が「インサイドアウト」です。

インサイドアウトとは、スティーブン・R・コヴィー博士が提唱した「7つの習慣」で挙げられた原則です。自分自身の内面に目を向け、自分の人格や動機を最初に変えることで、初めて外側の他人や環境に影響を与えられるという考え方です。私自身、7つの習慣はとても思い入れのある本で、本ブログでも取り上げています(参考:主体性を発揮するために)。現在は、7つの習慣に基づく自己実現支援システムの開発や教育手法の構築など、研究面でも取り入れています(参考:河野ゼミWebサイト)。

もともと、7つの習慣とソーシャルシフトは別の機会に知ったのですが、ソーシャルシフトの会のイベントでループスの斉藤さんから「ソーシャルシフトは7つの習慣の考えを企業に置き換えて作っている」という話を聞き、感慨深いものを感じました。

イベントの際、斉藤さんから紹介された本に『オープンリーダーシップ』があります。オープンリーダーシップとは、あらゆる情報や企業のビジョンを従業員と共有し、彼らに権限を委譲する(コントロールを手放す)ことで、相手から献身と責任感を引き出すためのリーダーの在り方とされています。従業員を統制するのではなく、信頼して任せるという考え方です。

そのためには、全社でコアバリュー(=経営哲学)を共有することが不可欠です。一人ひとりがコアバリューを深く理解し、それに基づいた行動ができていれば、細かくコントロールせずともうまく仕事が回るのだそうです。この最たる事例は、3.11震災時の東京ディズニーリゾートの対応でしょうか。すべてのキャスト(=従業員)は、「ゲスト(=お客様)を絶対に悲しませないようにする」「ゲストの安全を最優先とする」などが共有されているため、不測の事態であっても自分で考えて行動できるのです。

最後に、ソーシャルシフトのようなフレームワークを作ることはとても大切で、多くの知識や経験を持ち、世の中の流れに目を向ける姿勢が要求されます。その一方で、今回のカスミさんのように、そのフレームワークを実践することは、生半可な覚悟ではできない、とても根気のいることです。「言うは易く行うは難し」と言うように、実践することが重要であると感じました。

今回参考とした書籍を以下に挙げますので、もしご興味がありましたら、是非ご覧ください。